キャスト向けのオリジナルコースター印刷【名刺のピカルコ】

繁華街のネオンが揺れる金曜の夜。

キャバクラ「Club Pikaruco」に勤める明日香は、店のバックヤードでそっとため息をついた。最近、指名の数も悪くない。でも「もう一歩ほしい」…そんな気持ちがずっと胸の奥に引っかかっていた。

—どうしたらもっとお客様に、自分のことを印象づけられるんだろう。

アイドルのように派手な見た目でもないし、天性の愛嬌でぐいぐい押せるタイプでもない。だからこそ、明日香は自分なりの“工夫”を探していた。

その時、同僚のナナがふと口にした。

「最近、写真入りのコースター作ってる子いるらしいよ？離席中のグラスの上に置いとくと『あ、明日香ちゃんの席だ』ってわかるし、お客さんにあげたらめっちゃ喜ばれるんだって。」

――コースター？

その瞬間、明日香の中で小さな火花が散ったような気がした。

◆自分の魅力を「形」にするということ

仕事が終わった深夜、明日香は部屋に帰ってすぐにスマホを開いた。

「オリジナル コースター」「フルカラー 印刷」「小ロット」検索ワードを次々に打ち込み、情報を探すと…

――あった。
1枚から注文できて、写真もフルカラーでめちゃくちゃ綺麗に印刷される。

「これ…私でも作れるかもしれない」

胸の奥で何かがふわっと明るくなる感覚。明日使うメイク道具を並べるより先に、明日香はコースターのデザインを考え始めていた。

◆撮影、そしてデザイン

翌日のヘアメイク前、明日香は馴染みの美容師に頼んで軽く写真を撮ってもらった。いつもの営業用の笑顔じゃなく、少し柔らかく、温かい印象の表情。

その写真を見た瞬間、明日香は小さく呟いた。
「うん…この私なら、お客様にも覚えてもらえるかも」

デザインはシンプルに。背景は淡いピンク、名前は読みやすくゴールドの筆記体。小さくハートを添えて、華やかながらも品よくまとまるように。

作業を終えて送信ボタンを押すと、明日香は思わず深呼吸した。ちょっとドキドキした。でも、それと同じくらいワクワクしていた。

◆届いた箱を開ける瞬間

発送から数日後。
仕事に向かう前、明日香の家に小さな段ボールが届いた。

「きた…コースター…！」

丁寧にテープを剥がし、ゆっくり蓋を開けると——そこには、鮮やかなフルカラーで印刷された“自分”が並んでいた。

ツルッとした手触り、しっかりした厚み。写真の色味もそのままで、想像以上に綺麗。

「なにこれ…めちゃくちゃ可愛い…！」

明日香は顔をほころばせた。思わず何度も指で触れてしまう。この小さな丸いコースターが、もしかしたら今日の自分を変えるかもしれない。

◆初めて使った日のこと

その夜、明日香はいつもより少しだけ姿勢を正し、店に立った。1人目のお客様は、常連のタカシさん。

「明日香ちゃん、今日も元気そうだね」

「実は…こんなもの作っちゃいました」

明日香は少し照れながら、コースターを差し出した。するとタカシさんは目を丸くした。

「え！？すごいじゃん！こんな可愛いコースター作ったの？ちょっとした名刺より全然嬉しいよ！」

そして、タカシさんが席を外した時、明日香はそっと彼のグラスにそのコースターを置いた。

戻ってきた瞬間、タカシさんの眉がふっと上がる。

「なんか…守られてる感じするな。このグラス、明日香ちゃんが見てくれてるみたいで嬉しいわ。」

その言葉を聞いた時、明日香は胸が熱くなった。
自分が作ったたった1枚のコースターが、たった数秒の離席の間に“存在感”へと変わっていくのを感じた。

◆コースターがつないだ“距離”

その後、明日香は他のお客様にも少しずつ配るようになった。
「これ、可愛いね」
「記念に持って帰るよ！」
「次は違うデザイン作るの？」

コースターをきっかけに、会話の幅がぐっと広がった。
常連さんとの距離も縮まったし、初めてのお客様からも「覚えやすい！」と好評。

そして何より、明日香自身が自信を持てるようになった。それは、売上だけじゃない！自分が“誰かの楽しみ”になれるという実感。

◆そして、次のステップへ

ある日、店のママが明日香を呼び止めた。

「明日香、あなたのコースターすごく評判いいわね。あんたの魅せ方、ちゃんと考えてて偉いと思うよ」

明日香は少し照れながら笑った。

「あのコースター、私の小さなお守りみたいなんです。これからも、もっと可愛いもの作りたいなって」

箱の中には、まだ数十枚のコースターが残っている。だけど、それらはたぶんすぐに無くなるだろう。
お客様の手元や、グラスの上や、財布の中で、明日香の存在をさりげなく輝かせながら。

そして今日もまた、新しい夜が始まる。

手元には、あの小さな丸い“私”。
コースターが、明日香に自信とチャンスを連れてくる。